抑うつを主訴としたクライエントの心理療法の終結

−自律神経活動との関連を通して−

緒方 釈 (医療法人敬愛会 城山病院 心理療法課)

1・問題と目的

臨床の現場にいて、クライエントとどの時点でどのような感じで終結を迎えるのかを苦慮することが多い。そこで、今回は発表者(以下、Th.)が抑うつを主訴とした女性クライエントに心理療法を行い、抑うつ気分の低下を意識し自律神経機能の回復を受け入れてクライエントが合意し19回にて終結に至った事例について報告をする。

 2.事例の概要

 20代女性(以下A) 診断名:気分障害(うつ病)生育歴:同胞2名の長子。家族4名で過ごす。高校卒業後就労。

心理検査より真面目で周囲に気を使う性格、内罰的であり抑うつ状態を自覚している。

 

3.面接に至るまでの概要

X年5月初診。抑うつ気分や食欲不振、睡眠障害を訴えて受診。X年8月無気力状態となり、入院。SDS74点 HolterECG施行(1回目)(自律神経活動は正常)。一週間後退院。以後外来通院を続ける。X+1年4月。職場の人間関係に悩み抑うつ気分を訴え入院。SDS73点HolterECG施行(2回目)(.自律神経活動は低下)。Aから不安やうつの部分を扱って欲しいと依頼がありDr.指示のもとで心理療法開始となる。

 

4.面接過程

X+1年4月。Aと話し合いの結果、心理教育的な認知療法1)を行うことにするNs.による行動制限への協力や自分のマイナス思考へも気付く(#7)。仕事復帰への不安や退院に対してのプレッシャーを述べる(#13〜16)「テキストを読み返したり、認知行動の実験をしたりしています。」と語る。テキスト終了(#17)。X+1年7月。SDS78点HolterECG施行(3回目)(自律神経活動は正常)。「自分のことを客観的にみれるようになり、不安や抑うつ気分が低下してきた。」と述べる(#19)。この時点において心理療法を終了とする。X+1年9月退院。

 

5.結果と考察

 終結に関して、Th.側には逆転移、また「患者ごとに異なる微妙な精神面での問題が関係しているため、治療の終結を決められないのはやむを得ない」2)という問題が考えられる。また、クライエント側にはTh.への転移や再発の不安などがあるだろう。

AはSDSの値に変化はなく高値であった。だが、Aは入院中にテキストを最後までやり通しただけではなく治療活動にも真面目に取り組んだ。当初の目標は気持ちをことばで表すことであり、#13〜16で自分の気持ちをことばで表現できるようになっていた。#19では「自分のことを客観的にみれるようになったし、不安や抑うつ気分が低下してきた」という発言がみられた。また自律神経という客観的なデータ−を提示することでSDSが高値である自分のことも肯定的にとらえる事ができるようになったと思われた。

心電図変化から読み取ることができる自律神経活動からは、2回目が1回目に比べて夜間帯における自律神経の活動全体が低下していた。しかし、3回目では、自律神経活動の改善に併せて、副交感神経の活動優位を認めた。Aは、自律神経活動の結果を理解し、一歩を踏み出すきっかけになったと考えられる。

今回、Aに不安や抑うつ気分が低下してきたという意識と自律神経機能の回復を受け入れた時点で、Th.は心理療法を終結することを考えた。自律神経機能の回復を視覚的にとらえ理解することでTh.クライエント双方にとって心理療法の終結への一助になるのではないかと考える。

 

.参考文献

1) デニス・グリーンバーガー、C.Aパデスキー著、大野裕監訳「うつと不安の認知療法練習帳」創元社 2001

2)宮岡等、岡崎祐士、青木省三編「こころの科学110治療を終えるとき」日本評論社2003

 

 城山病院